28年間生きてきて、一度も一人暮らしをしたいと思うことはなかった。実家が大好きで、リビングにいると守られているような気持ちがして、大好きな犬がいて、日当たりが良くて、とにかく「家」はいちばん好きな場所。いつか私は嫁に行くと思っていたから、そうするといつか家族と離れ離れになる。離れると、きっと会う回数はぐんと減る。それなら、いられるうちは、家族のそばにいよう、と思った。このコピーを読んでからからかな。
思い立った日が、父の日、母の日になる。
帰らなきゃ、とは思っている。
親もいい歳になってきた。
でも、こちらもいい年齢になってきて、
仕事での責任も重くなり、
なかなか休むことができなかった。
現実的には、年一回、
四、五日帰省するのがやっとだった。
もし、これが十年続いても、
単純計算で四、五十日しか会えないことになる。
十年で一緒に過ごす時間が、
たった二ヶ月にも満たないのか……。
通勤電車を待つ間に、そんな計算をしてしまった。
実家は、この九州の南のほうにある。
故郷は、このレールの先にある。
会うたびに、白髪がふえていく父。
無理して帰らなくていいよ、といつも言う母。
が、目に浮かんだ。
これから先、僕は、
人生で、何日帰省するのだろう。
その週末、僕は、つばめで故郷に降り立った
一人暮らしをする気持ちなんてちょっともなかった。だから新しい場所で新しい仕事に就くというとき、さあ、どうしようと考えた。もしかすると一人暮らしをするのもいいかもしれない、と思った。もういい歳だし。ここで一人で過ごすのも。ちょっとだけワクワクした。楽しそうだ。でも、やっぱり怖い気持ちもあった。非常に心配性な生き物なので。どうしようどうしようと迷いながら、結局、いつの間にかひとり、ではなく、ふたりで暮らすことになっていた。話はとんとん進んで、気づけば家が決まり、いま新しいお家でこの日記を書いている。
28年間生きてきて、どうやら一人暮らしをすることのない人生を生きようとしている。それはそれでよかったのかもしれない。毎日なんだかヘトヘトで、でも二人でキッチンに立って、スヤスヤ眠るのも楽しい。
でもやつぱり、ちょつとだけ、一人暮らし、してみたかったなと思ったりもする。それは、案外、誰もいないお家にひとりで過ごすだけで叶えられることかもしれないけれど。