最初で最後の夜。

泣いてる子をあやすために、体温を感じてもらえるように抱っこする。小さな光の中で、子がわたしのことをじっと見つめている。

私はときどき小さな声で歌いながら、夫のことを話してみる。「あなたのお父さんは、とってもやさしいひとだよ。あなたはどっちに似た性格かなあ。夫に似てたらうれしいなあ」って話しかけていたら、涙が出てきた。面会できず、少しだけ広いお部屋で、ずっとふたりっきりの5日間を過ごした。毎日くるくると表情を変えて、ぎゅっと指を握って、泣いて、はじめて、一緒に過ごした夜のことは、一生忘れないだろう。

なんでも初めてで、パニックになりながらお世話をした。覚えてないと思うけれど、わたしがずっと覚えてるからいいのだ。保育園に入るまでの期間、じっと観察するように、表情を、動きを、すべてを目に焼き付けておこう。

明日の午前中にはここを退院する。「帰ったら、いろんな人が待っているよ」と、子にいう。私の話を、じっとこちらを見ながら、泣き止んだ子は、そのまますっと眠りについた。